英語教育
e-Learning
教材開発

人文学部 英米文化学科

田中 洋也教授

Hiroya Tanaka

ICT、アニメを使った教材で英語学習者を支援研究成果を教育に還元

公立高校の英語科教員の経歴を持つ田中教授。限られた条件の中でも英語学習を進展させるための支援策として、ICT(情報通信技術)を使った電子ポートフォリオや適切な表現が学べるアニメ教材を制作。語彙力を中心とした学習支援をテーマに研究を続けています。

授業時間と語数の壁を越えるためのICT
「外国語としての英語学習者への支援策」。田中教授がこの研究テーマと出会ったのは、道立高校の英語科教師時代でした。

日本の英語学習には、量(学習時間とその量)と質(学習内容とその方法)の2つの要因があります。中学、高校6年間の平均的な英語授業時間は700時間弱ですが、これは起きている時間のわずか2%程度。英語を身につけるには不充分です。語数も、6年間で学ぶ約3,000語では、専門的な文献講読に必要と言われる約10,000語とは大差があります。

また、外国語を身につけるためは、目標設定、時間の確保、体系的な学習の継続、その過程で進捗状況を分析して学習内容や方法を調整をすることが大切です。しかし、それが難しいこともわかっています。

そこで田中教授が構築・活用しているのが、ICTを活用した語彙学習支援システムの電子ポートフォリオです。これは、語彙を中心とした学習はもちろんのこと、学習状況の自己管理がしやすいことも大きな特徴です。

電子ポートフォリオで「メタ認知」を活性化
自己管理しやすいシステムにしたのは、近年、外国語の学習において重要視されている「メタ認知」の活性化を意識したためです。「メタ認知」とは、「認知していることを認知すること」。例えば、学習者が学習の進展具合を客観的に把握するということです。

現在の電子ポートフォリオのLexinote(レキシノート)では、課題の英文中の学習すべき重要な語のうち、まだ登録していない語は赤、重要な語彙リストの語で学習で使えるようになった語は緑、リスト外で学んだ語は青と、色分け表示されます。語彙の親密度判定では、「見たことがある」から、「自分で文を作ることができる」までの5段階が☆の数で示され、これらは「メタ認知」力育成の支援策となっています。

Lexinoteには、学習の継続を支援する仕組みもあります。それが、知識を一覧表示するポートフォリオ画面です。課題や作文で使用した語がポートフォリオに一覧表示されるため、学習の進捗状況を確認できます。また、学習成果の共有画面では、学生は互いの学習成果を自分の学習の励みにすることもできるのです。

「TOEIC対策に役立つ」と95%が高評価
電子ポートフォリオは個々の学習者の使用記録が残ります。1世代前の電子ポートフォリオのRetriever2では、TOEIC対策の授業の一部でこれを使い、ほぼ毎回、語彙知識を中心とした小テストを実施。電子ポートフォリオでの学習状況と英語の語彙の定着度の関係を調査しました。Retriever2は授業時間以外にも使えるため、使用頻度には大きな個人差がありましたが、このシステムを使って学習した学生ほどテスト結果も良いことが明らかになりました。研究終了後のアンケートでは、学生の95%以上が「TOEIC対策の語彙学習に役立つと思う」と回答し、大変好評でした。

田中教授は今後、経済学部や工学部など、専攻に応じて専門用語の辞書を載せ替えて学習できるようにすることを計画。「将来は、中学生から使い始められるシステムを構築し、より早くから長期にわたる学習支援ができるようにしたい」と抱負を語ります。また、現在は、北海道や全国の中学生、高校生が大学に入学した時に、これまでどんな語をいくつ学んできたのかが可視化できるスマートフォン・アプリの開発を手がけています。

アニメを使って適切な言葉遣いを学習
人文学部にはカナダの大学への短期留学プログラムがあります。田中教授は、これらに参加する学生を想定して親しみやすいアニメを使った英会話学習プログラムを制作しました。主人公は、英会話があまり得意でない男子学生のエイゾウです。

アニメは留学前から帰国前のお別れ会までの全5話。エイゾウは毎回、直接的過ぎる言葉遣いで失敗しますが、場面を巻き戻し、彼に同行する3羽の鳥のマスコットのアドバイスを受けて適切な表現に言い直します。

これは教材としての使い勝手も良く、Lexinote と連動させて学生同士がロールプレイ学習できるほか、手元のスマートフォンでも気軽に勉強できるようになっています。学生たちにも好評で、留学前の準備だけでなく、帰国後にこのアニメで学習する学生もいます。「今後は、実証的研究を行い、より良い教材作りを目指します」。

研究成果を教育の場に還元する田中教授の取り組みはこれからも続きます。

Profile

人文学部 英米文化学科
田中 洋也

1972年生まれ。2011年北海道大学大学院国際広報メディア研究科博士後期課程修了。博士(国際広報メディア・北海道大学)。北海道公立高校教員、北海道情報大学経営情報学部講師を経て、2011年北海学園大学人文学部講師、2013年同准教授、2016年より現職。主な論文に
‘An attempt to raise Japanese EFL learners’pragmatic awareness using online discourse completion tasks.’ JALT CALL Journal, 11(2)(JALT CALL SIG)など。

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