生態人類学
環境
資源利用

人文学部 日本文化学科

須田 一弘教授

Kazuhiro Suda

熱帯の国で伝統的な生活を共にする異色の研究者人間と自然との関わりを紐解く

パプアニューギニア、トンガ、マレーシア、インドネシアで定量的なデータ収集を行い、人々がどのような暮らしをしているのか見つめ続ける異色の研究者がいます。小さな地域の調査から人口流動や生業の変容を明らかにし、人間と自然、環境との関わりを解紐しています。

人々の暮らしを見つめ、量的なデータで計る
文化人類学は異文化を対象としてフィールドワークを行い、世界の民族と文化・社会を比較研究する学問です。そのフィールドワークは、「他者」を、「現地の人々」の生き方を理解するためのもので、「他者」への興味と関心こそが文化人類学の原動力ともいえます。自分たちとは違う暮らしがあるということを学ぶことで、日本文化やいまの生活というものを相対化することに繋がっていくのです。

その中で、須田教授が専門にしているのは、人と自然の関わり――特に適応に焦点を当てる生態人類学の分野です。人々の生活の基本である生業活動や資源利用を、生産性や時間配分などの定量的データ、社会組織などの定性的データに基づく分析をつうじて、人間と自然との関係を研究しています。直接的で量的なデータの収集を基本とし、バネ秤、巻き尺、時計などを使って、重さや長さ、時間などすべてを記録して、人々がどんな生活をしているのかを克明に記録しています。
  • パプアニューギニア・クボの村人たちと

  • 村人が弓矢で仕留めたカンムリバトと

  • 儀礼時のダンスで精霊と交感

パプアニューギニアで伝統的な生活を共にする
須田教授が本格的に調査した最初の地はパプアニューギニア。道路もない内陸部の熱帯林で、伝統的な自給自足の生活を送っている人々が、農耕や採集、狩猟活働にどのくらいの時間を使って、どのような作物や獲物を入手しているのか、また、そうした活動が彼らの超自然観とどのように関わっているのかを現地に3回赴き研究をしました。

当時を振り返り、須田教授は、「食べ物は、サゴヤシからつくるデンプンの塊や甘くない緑のバナナをたき火で焼き、味つけもせずそのまま食べるので、口に合いませんでした(笑)」と、笑顔で現地での生活の様子を語ります。現地の人々は、人にねたまれないように、威張らないようにということを気にしていて、ねたみを持たれると呪いをかけられると信じています。私たちとは相当にかけ離れた暮らしをしているわけです。

また、トンガでの調査では、離島に暮らす人々の漁労活動を中心に、貨幣の浸透がどのような生活の変化をもたらしたのかについても研究してきました。
  • かつては小型ボートが並んでいた
    マレーシアの海岸

  • オランアスリの子どもたち

  • 子どもたちの目の前で、
    開発のために熱帯雨林が消えていく

アブラヤシプランテーションの急増が
マレーシアの暮らしを一変させた
須田教授は、マレーシア東海岸のトレンガヌ州にある半農半漁村に1991年から継続して訪れています。ここの村民はイスラム教徒ということもあり、「男女の隔離が厳しく、私は男性としか仲良くできませんが、謙虚でやさしく、居心地のいいところです」と須田教授は語ります。

当初の研究テーマは、村の生業の中心であった「漁業や農業の実態」と「若者の職業選択」でした。それから四半世紀が経ち、村の様子や人々の暮らしも相当変わってきています。国家による開発政策で、1980年代から熱帯林を切り開いてつくられたアブラヤシプランテーションが急増し、自然はどんどん失われました。オランアスリと呼ばれる狩猟採集を行う先住民は、活動の場であった森を奪われ、生業を変えざるを得なくなりました。また、多くのマレー人もプランテーションに参加して、暮らしを変容させています。須田教授は、このような環境変化に対して、現地の人がどのように対応しながら生活を続けているのかを研究しています。

日本でもスナック菓子の揚げ油として利用され、食用油で3位の量を消費しているアブラヤシ油に様々な背景があることは、意外に知られていません。
  • バンドン近郊の農村の棚田

  • 仲買人の家の前に集荷したサツマイモ

  • 収穫後の水田をサツマイモ畑に

インドネシアとマレーシアを舞台に、
人口流動と環境との関係を解明
これまで進めてきた科研費等の研究は、上述のマレーシアとインドネシア西ジャワ州の2つの集落を対象にした、「東南アジアにおける人口流動と資源利用の変容が環境に与える影響に関する研究」です。

インドネシアの集落は、山の上まで棚田となっていて、自然はほとんどなくなっています。そういう山間地でどのような資源利用をしているのか、聞き取りと直接観察で調査します。この地域では、2年間で米を5回つくるのが基本ですが、幹線道路に近い集落では、近年稲作と換金作物となったサツマイモの輪作が行われています。すぐ近くにある2つの集落であっても、生業戦略が大きく異なっているわけです。

同時に須田教授は、トランスミグラシと呼ばれる移住政策が、人々の暮らしや資源利用にどのような影響を与えているかについても調べています。国内外の人口流動によって生じた地域環境への影響と、地域環境変動によって生じた人口流動の双方を動的に分析し、人口流動と環境との関係を明らかにしようと考えています。

Profile

人文学部 日本文化学科
須田 一弘

1958年生まれ。1990年北海道大学大学院文学研究科行動科学専攻博士後期課程単位取得満期退学。博士(農学・鹿児島大学)。日本学術振興会特別研究員を経て、1992年北海学園大学教養部講師、1993年同人文学部講師、1996年同助教授、1999年より現職。『生態人類学を学ぶ人のために』(共著、世界思想社年)、『講座生態人類学5 ニューギニア, 交錯する伝統と近代』(共著、京都大学学術出版会)、『人類の移動誌』(共著、臨川書店)など、著書・論文多数。

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