GIS(地理情報システム)
自動車リサイクル
静脈産業

経済学部 経済学科

浅妻 裕教授

Yutaka Asazuma

ニッチな環境問題への挑戦自動車のリユース・リサイクルを考える

商品を生産する「動脈産業」に対し、環境や資源への負荷を軽減するリサイクル・廃棄物処理、その流通に係わる産業は広く「静脈産業」と呼ばれています。その中でも、自動車リユース・リサイクルやリユース品の流通を中心的なテーマとして研究しているのが浅妻裕教授です。

富山港から輸出される中古車

地域再生から自動車リサイクルの問題へ
日本は1950年代半ばから1970年代はじめにかけて、高度経済成長を遂げました。しかし、その一方で、牽引役であった重化学工業はさまざまな公害をもたらしました。多くの訴訟が起き、企業は軒並み敗訴。臨海工業地帯から撤退が相次ぎ、1990年代には空洞化。そしてその跡地の「環境再生」が大きな課題として残りました。

そのような時代背景の中、大学で地域経済学を学んだ浅妻教授が大学院で専攻したのが、経済学から環境問題を扱う環境経済学でした。

環境問題において、「廃車処理」「リサイクル」は大きなテーマです。2005年に自動車リサイクル法が整備され、現在は自動車のリサイクル率は限りなく100%に近づいていますが、1970年代には路上放棄や廃車丸ごとの焼却による公害が社会問題化。1980年代から90年代には廃車を砕いてできるシュレッダーダストの不法投棄による土壌汚染や処理費用の高騰が大きな問題となり、1990年代末でもなお、解決とはほど遠い状況にありました。

そんな中、「環境再生」の課題も抱える臨海工業地帯の工場撤退跡地に自動車解体業者が進出していることを知った浅妻教授は、今に続く、自動車リユース・リサイクルの研究へと向かいました。

経済+環境+地理の三つ巴のアプローチ
しかし、静脈産業は中小零細企業が中心です。産業として注目されず、一部の研究者が精力的に進めていたとはいえ経済学の観点から研究対象とする人も乏しく、実態は十分に解明されていませんでした。環境経済学と経済地理学にまたがるこの研究は、貴重な先行研究を追いかけるところからのスタートでした。そのため浅妻教授は「現在でも経済学からこのテーマを研究する人は多いとは言えません。ニッチな産業の研究もまたニッチなのです。それだけに、埋もれていた事実を明らかにする喜びは大きく、体温が上がるように感じられるほどです」と語ります。

例えば、解体業者の立地。自動車は大都市圏に集中しているため、自動車の解体・処理業者も当初は大都市圏に集中していましたが、環境問題で移転を余儀なくされると、今度は臨海工業地帯の工業用地など、一定の地域に集まる動きもみられるように。このような産業集積がみられる大きな理由が、1台の車からエンジンは1つしか得られない静脈産業ならではの供給制約。解体業者は、集積・連携することで、取引先との情報の非対称性を緩和し、需給のマッチングを図る必要があったのです。

中古部品の中継貿易が盛んなUAEのシャルジャ首長国

大都市から地方へ、日本から世界の津々浦々へ
静脈産業は元手がなくても始められることも特徴で、1960年代半ばから日本製の中古車が東アジア・東南アジアに輸出されるようになると、その修理に必要な中古部品を求めて東南アジアなどからバイヤーが来日。彼らとの接触により、海外でのビジネスチャンスに気付いた日本の解体業者が海外で事業を展開するようになっていきます。

1970年代には日本を拠点に中古車輸出業を営む外国人が増え、1970年代末頃にはパキスタン人が大きな存在感を示すようになりました。規模は小さな業界ですが、グローバル化は早かったと言えます。

中古自動車は、所得の高い国や地域から、所得の低い国や地域へ流れます。日本から世界各地に輸出されているのは、日本車への信頼を示すものとも言えます。しかし、一方で、中古車の輸出は、最終的には廃棄物の移転という面もあるため、今後も注視していく必要があります。

GISで進む研究の視覚化・分析
浅妻教授が近年、中古車や廃棄物の流通研究に使っている新しいツールが、地図をベースとしてさまざまな情報を可視化し、その情報の関係性やパターンを分析するのに便利なGIS(Geographic Information System=地理情報システム)です。

これを活用し、2015年の札幌市電のループ化・延伸の効果や、石狩市のパッカー車(ゴミ収集車)のルートの効率化に関する研究も行いました。市電の利用者数は、ループ化後に全体で1割以上増加しましたが、GISで詳細に調べることで、ループ化の後に市電沿線の人口増加が見られることがわかりました。また、比較的直近から地価の上昇傾向が見られることも示されました。

「今のゼミでは再生可能エネルギーの展開も扱っていますが、もちろんこの学習・研究でもGISは役立ちます」と浅妻教授。こうした新しい技術やアプローチに積極的に取り組むことも、問題解決への大きな一歩なのです。

Profile

経済学部 経済学科
浅妻 裕

1972年生まれ。2002年一橋大学大学院経済学研究科応用経済専攻博士課程単位取得退学。同年北海学園大学経済学部講師、2006年同助教授、2007年同准教授、2011年より現職。主な研究テーマは「自動車を中心とした静脈産業の立地と流通」。その他、交通、資源・エネルギー問題。

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