ヘルスモニタリング
構造同定・逆解析
構造動力学

工学部 社会環境工学科

小幡 卓司教授

Takashi Obata

社会基盤施設の老朽化と戦う土木技術者社会の持続的発展を維持するために

現在、道路、橋、上下水道などのライフラインなど、様々な社会基盤施設の老朽化が問題となっています。社会の持続的発展を維持するために、今こそ土木技術者の活躍が期待される時代です。例えば、爆発的に進行しつつある交通インフラの老朽化への対応、自動運転のように進化する交通システムに対する安全性の確保など、様々な問題への対応が求められています。

橋梁の塗装劣化

築50年超の橋梁が65%以上に
現在、国内には2m以上の橋梁が約78万橋あり、国、都道府県、市町村がそれぞれ管理しています。道路橋は、いわゆる高度成長期に多数架設され、予想外の交通量の増大、車両荷重の増加、地震など、常時、異常時ともに様々な荷重を受けており、損傷の補修・補強、耐震性能の向上、維持管理の強化や予防保全による長寿命化への対応が必要となっています。特に高度成長期に造られた橋は、新しい橋に比べて耐久性も低く、傷みが激しい現状があり、築50年超の橋梁は今後20年間で65%以上に増大します。

2014年、5年に1度の橋梁点検が法制化され、地方自治体でも橋梁の近接目視点検が義務化されました。ただ、地方自治体では財政力や技術職員の不足から橋梁点検の実施には困難を来しており、構造物の健全度を物理的なデータで判定するヘルスモニタリングシステムの開発が急がれています。小幡教授は「現行の橋梁点検要領では、その項目も非常に多く、橋梁点検士など有資格者の目視点検でも個人差があるため、誰でも簡単に正確な点検が可能なシステムをつくり出さないといけない」と意気込みを語ります。

新技術を用いた汎用システムの構築を目指して
現在の橋梁点検は、点検者の主観が入りやすい目視点検や打音検査が中心で、加速度測定による点検手法も提案されていますが、未だに何らかの物理量で損傷の程度や位置を同定する実用システムは存在していません。

そこで、小幡教授が考えているのが、圧電素子を動的ひずみに対するセンサとして利用し、波形の乱れを観測することで損傷同定を行う橋梁ヘルスモニタリングシステムです。圧電素子は、素子の変形に対して自己発電機能を有しているため、荷電の必要がなく、素子の変形量に応じた電圧の測定が可能です。損傷近傍では力の流れが大きく変化し、それが動ひずみの応答に現れるため、圧電素子の測定結果も振動波形・スペクトル共に大きく変化します。

また、損傷からある程度離れた圧電素子では、振動数の低下はスペクトルから読み取れるものの、劇的な電圧低下は生じません。圧電素子のこうした機能を利用し、mini PCを組み合わせることで、損傷位置ならびに程度まで集中的に管理可能な損傷同定システムの構築を研究しています。

データ活用は、クラウドからAIへ
圧電素子を利用して収集した橋梁のセンシングデータは、クラウドPCに集積し、必要な解析を行います。その結果は外部からインターネットでアクセスできるため、波形、スペクトル、伝達関数などの橋梁の応答特性がどこでも得られるようになります。

さらに、その応用段階として、蓄積されたデータのAIによる活用を検討しています。補修や架け替えなどの最終的なジャッジは人が行いますが、物理データや橋梁の重要度などをAIに学習させることにより、橋梁の補修順位をランク付けさせ、人が関わる作業をできるだけ少なくします。そうして、安価で正確、かつ個人差が出にくい一括したシステムをうまくつくり出そうと考えています。

一方、橋梁点検データに関しては、点検要領の改訂により、以前のデータと新しいデータの項目が同一ではなく、またデータが豊富にある橋と少ない橋を同様に学習させても大丈夫かなどの問題を解決する必要があり、色々なデータに対応できるシステムにするための検証を進めています。

白鳥大橋(室蘭)

生活道路の橋にこそ必要なモニタリングシステムを
日本には世界一の長大橋があり、ランドマークになっている橋もたくさんあります。そうした橋は、多くが鋼で造られた橋です。イニシャルコストは少々高いですが、丈夫で長持ち、補修・補強も比較的容易。鉄のリサイクル率はほぼ100%なので、やはり鋼は優れた材料と言えます。

小幡教授は、「大きな橋は確かに重要ですが、本当に壊れてはいけないのは生活道路の橋です。そういう橋に、安価で集中運用でき、特別な専門知識を必要としないヘルスモニタリングシステムを早急に設置する必要があると思います。同時に、システムからのデータを正確に判定できる技術者の教育も非常に重要です。道路とは人・物流のネットワークであり、そのつなぎ目となる重要な役割を果たしているのが生活道路の橋です。学生には、そういう橋をライフラインとして着目し、興味を持ってもらえたらうれしいですね」と、社会基盤施設の維持管理に貢献、邁進しようと考えています。

Profile

工学部 社会環境工学科
小幡 卓司

1962年生まれ。芝浦工業大学工学部土木工学科卒業。博士(工学・北海道大学)。技術士(建設部門)。東洋技研コンサルタント株式会社、北海道大学、株式会社エーティック、大阪府立大学工業高等専門学校を経て、 2015年より現職。『橋梁の損傷度・余寿命およびUCと再建設費用を考慮したBMS構築に関する研究』(土木学会論文集)、『圧電素子を用いた損傷同定モニタリングシステムの実験的研究』(土木学会構造工学論文集)など、著書・論文多数。

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