アカデミック・コーチング
社会的ビジネス
グローバルリーダー

経営学部 経営学科

菅原 秀幸教授

Hideyuki Sugawara

途上国の貧困問題をビジネスで解決BoP/SDGsビジネスをリードする

近年、「BoP/SDGsビジネス」と呼ばれる国際ビジネスの新たな潮流が注目されています。これは企業が利益を追求すると同時に、途上国の貧困社会が抱えている課題解決にも貢献する試みのことをいいます。「貧困をビジネスで解決する」という今日の非常識を明日の常識に変える挑戦です。

約40億人と推計されるBoP市場
菅原教授は、日本では数少ないBoP/SDGsビジネスの専門家として、2009年に経済産業省が実施した「途上国社会課題解決型ビジネス・ミッション派遣事業」の選考委員会座長を務め、2010年にはNHKクローズアップ現代にも出演、名実ともにこの分野をリードする国際経営学者として知られています。

そもそも「BoP」とは、1日の所得が8ドル以下で暮らす人々(Base of the Pyramid)のこと。世界の人口の6割以上を占め、約40億人と推計されています。長らくこれらの人々は援助の対象とみなされ、国際機関や先進国による開発援助などが行われてきましたが、真に援助を必要とする貧困層には行き渡らないなど、根本的な解決策とはなりえていない現状もあります。そんな中、BoP/SDGsビジネスでは、利益追求という企業の行動原理に則した事業を行い、かつ貧困層の抱える課題の解決をもめざすというもの。とはいえ、所得も購買力も低いBoP市場で利益を上げ、持続的な事業を行うのは容易ではなく、従来とはまったく異なるアプローチを必要とします。

数多くの事例分析から成功モデルを抽出
これまで菅原教授は、世界の多くのビジネスモデルの事例を分析し、そこから成功の鍵を明らかにしてきました。

例えば、殺虫剤で有名なフマキラー(株)はインドネシアでの事業展開において、「ホールピラミッドモデル」と呼ばれるビジネスモデルで成功を収めているといいます。これは、BoP層に対しては蚊取り線香を1巻ずつ販売し、そのミドルの所得階層には液体蚊取りや電気蚊取りマットといったランクの高い商品を販売するなど、全体で利益を上げるというモデルです。

また、現地政府や国際機関の補助金等を活用し、自社のコストを抑える「ドナー・政府補助モデル」もあります。例えば、ガーナで栄養サプリメントの生産・販売を手がける味の素(株)は、JICA(国際協力機構)の支援制度を活用し、BoP層の子どもたちの栄養改善に貢献するなど、困難の中にもさまざまな知恵と工夫による試みが行われています。

ミッション・エコノミーの時代へ
「BoPビジネス元年」と呼ばれた2009年以降、産業振興の面から経済産業省が、開発援助の面から外務省が、この取り組みを後押しする姿勢を明確にしています。

菅原教授によると、元来、日本企業には「社会と共に発展する会社」という考え方が根づいている上に、「現場を重視する姿勢」や「改善・改良で発揮する優れた力」など、BoP/SDGsビジネスに必要な資質が十分に備わっており、「日本企業が本気で取り組めば、必ずや世界のキープレイヤーになれる」といいます。

また、利益追求にしのぎを削る従来の資本主義とは違い、もっと自らの使命感や、社会や他者に対する貢献という価値観を軸に経済がまわる時代の到来を予感させる試みでもあります。菅原教授は、こうした経済のあり方を「ミッション・エコノミー」と名づけ、資本主義の新たなステージと考えています。

ゼミ学生のコーチング

アカデミック・コーチング学会を結成
菅原教授のもう一つの研究の柱が、「アカデミック・コーチング」と呼ばれる教育手法です。コーチングとは、「人が本来もっている能力を最大限に引き出し、可能性を大きく拓かせることを目的とするコミュニケーションの体系」をいいます。菅原教授とコーチングとの出会いは、かつて米国企業の研究をしていた時代に、ほとんどの米国企業のCEOに専属のコーチがついていることを知って驚いた体験によるといいます。米国ビジネス界ではコーチを雇うことが一般化し、効果が広く認識されているのに対して、日本ではコーチングといえば、自己啓発の一種というイメージが強く、「玉石混淆」の状況にあるともいいます。

そこで菅原教授は、科学的な理論とエビデンスに基づいたコーチングを体系化するため、2016年、経営学や心理学、コミュニケーションなどを専門にする研究者やコーチと共に「アカデミック・コーチング学会」を結成。大学においても、従来型のティーチング主体の「一方通行型講義」ではなく、コーチング主体の「答えのない問題」に挑む主体的学修へと変革を行う試みにも取り組んでいます。

Profile

経営学部 経営学科
菅原 秀幸

国際経営学者、アカデミック・コーチ、社会起業家。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。2006年より現職。英国レディング大学、米国ワシントン大学、米国スタンフォード大学にて国際ビジネスとイノベーションの研究に従事。主な著書・論文に『BOPビジネス入門』(共著、中央経済社、2011年)、「大学教育改革へのアカデミック・コーチングの挑戦」(北海学園大学経営学会『経営論集』第12巻第4号、2015年)など多数。

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