まちづくり
住環境
現場重視

工学部 建築学科

岡本 浩一教授

Koichi Okamoto

都市の“老い”に活路を拓く地域再生の先導役住み続けたいまちづくりにかける想い

少子高齢化や人口減少に伴い、空き家の増加や各種の住宅・団地の老朽化などが大きな社会問題となっています。建築学科の岡本浩一教授は、都市計画・住環境計画の観点から、こうした建築物やまちが抱えるさまざまな問題に対する提言や実践活動を行っています。

空き家のリノベーションで地域活性化
岡本教授は毎年、ゼミ生たちとともに、さまざまなまちづくり活動に参加しています。その活躍ぶりは、さしずめ、地域再生の先導役ともいえるもの。2017年には沼田町の要請を受け、空き家の改修を行いました。

沼田町は、北海道のほぼ中央にある人口3200人ほどのまちですが、近年、過疎化による空き家の増加が顕在化してきています。ゼミ生たちは、岡本教授の指導のもと、対象となる空き家の実測調査を行い、町外から訪れる人が利用できる「移住体験住宅」に改修するプランを提案。「単に移住体験住宅ではなく、地域の魅力を感じるベースキャンプという視点を大切にしました」と岡本教授がいうように、玄関近くに広い土間を設けて川で釣った魚や山菜を下処理でき、壁はコルクで仕上げ移住体験者の思い出写真を貼り重ねられるなど、多様な工夫が見られます。設計・施工・仕上げまでをゼミ生たち自らが行いました。ゼミ生たちが地域と交流しながら空き家を改修する様子は、ブログを通じて発信され、大きな反響を呼びました。

沼田町移住体験ブログはこちら

空き家問題の根底を考える
岡本教授は、これまで戸建住宅地の調査研究を積み重ねてきましたが、中でも最近の調査では、将来の「空き家予備軍」となりうる家々に住まう人たちの意識を浮き彫りにしています。

道内3カ所の戸建住宅地(札幌市、北広島市、石狩市)において、「自宅の今後の取り扱い」を尋ねたところ、「決まっている」と答えた人は15%未満と低く、「子供に相続し判断を任せる」が約60%を占めました。また、「中古物件として売る」と答えた人が約30%に上りましたが、立地条件のよい物件以外は「売ろうとしても売れない」という現実を多くの人が認識していないことがわかりました。

岡本教授は、空き家問題の根底には、自分の財産の行く末を自ら決めきれない心性、いわば終活(人生の終わりに向けた活動)の難しさにも通ずる「もったいない意識」の負の側面があるのではと指摘。「今後、自分の財産をどうしたいのかを考える、そのきっかけを生むような仕組みづくりが大切」といいます。

UR都市機構と道内初の連携協定
一方、集合住宅団地の老朽化も大きな社会問題となる中、2015年には学校法人北海学園とUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)が、道内大学としては初の連携協定を締結。少子高齢化によって生じる課題に対し、協働で取り組みを実施しています。

現在、岡本教授は、建築計画を専門とする石橋達勇教授とともに、UR澄川団地(札幌市南区)の居住者の方々から生活実態や居住実感などを伺い、望ましい住環境を探る研究を進めています。また、住棟の壁の色を変えると団地の雰囲気がどう変わるのかを検証するため、CGによる色彩シミュレーション画像を作成し、居住者の方々に印象を評価してもらう実験なども行いました。

岡本教授は「さまざまな年齢層や家族構成の人たちが集まって暮らせると、団地に新たな可能性が湧き出る」といいます。今後は、空き住戸や集会所、各種施設などの資産を有効活用し、多世代間の交流をより活発にする仕組みづくりにも取り組んでいきます。

ヨソモノ・ワカモノの視点を起爆剤に
近年、政府や自治体が、空き家対策のための特別措置法や条例の制定に乗り出しています。空き家問題は1軒ずつを見ていても解決しないと岡本教授はいいます。「空き家になった理由を考えるとき、所有者の事情ももちろんありますが、地域が問題を抱えている場合もある。もっと、あるべき地域像を地域主体で描いた上で、空き家の利活用や除却を実施しないと対症療法に終わってしまいます」

私たちが住み続けたいまちとは何か──。これが岡本ゼミが探求する最重要テーマです。岡本ゼミでは、これまで函館市でのペンキ塗りボランティア活動や、恵庭市恵み野商店街の夏祭り企画支援など、さまざまな地域活動に取り組んできましたが、「ゼミ生が地域に入ることで、地元の人たちも奮起し、内に秘めていた地域への思いや愛着を行動に移し始める大きな効果があったりします」

ゼミ生にとっても、まちづくりの息吹や肌触りを感じ、絶好の学びの場となるなど、一挙両得ともいえる効果を生んでいます。

Profile

工学部 建築学科
岡本 浩一

1976年生まれ。2003年北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士課程修了。博士(工学・北海道大学)。技術士(建設部門)。株式会社ホルスを経て、2007年北海学園大学工学部講師、2008年同准教授、2014年より現職。主な論文に「戸建住宅地における家庭ごみ集積所の実態と利用者の評価」(『日本建築学会計画系論文集』第81巻第722号、2016年)など。

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