
組織のアイデンティティ
帰属意識
やる気とパフォーマンス
経営学部 経営学科
金 倫廷准教授
KIM Yun Jeong
組織の中で「自分は何者なのか」を突き詰める
アイデンティティ、という言葉はよく耳にしますが、説明をするとなると難しいかもしれません。自己認識、個性、独自性などの言葉で置き換えることが多いでしょうか。日本の経営学でもその分野の研究者は数少なく、金先生はそのうちのひとりです。

- 自らの経験から、企業の存在価値に興味
- 韓国出身の金先生は留学で日本へやってきました。日本語での授業についていけるか不安で、講義はいつも一番前の席に座り、先生のジョークまで全部ノートに書き取っていたといいます。
「お金の稼ぎ方について勉強したかったので、早稲田大学の商学部に入学しました。マーケティングなどについても学びましたが、いかにしてお金を儲けるかには興味が持てず、企業倫理やCSR(企業の社会的責任)に目が向くようになりました。その前に韓国の大学を中退しており、その挫折から『自分は何者なのか』と考えるようになったため、心理学の授業で学んだアイデンティティという概念に惹かれました。企業も人と同様にアイデンティティを持っていると考えれば、企業をより深く理解できると思いました」

- 「組織のアイデンティティ」とは何なのか
- 金先生の研究テーマは「組織アイデンティティと組織アイデンティフィケーション」です。組織と、そこに所属する個人の帰属意識の影響を考察します。
「組織そのもののアイデンティティというのは、例えば北海学園大学という組織でいえば『開拓者精神』などが挙げられます。北海学園大学は何者なのか、というテーマです。組織アイデンティフィケーションは、北海学園大学に所属する人々のアイデンティティ、つまり私もそうですし、学生もそうです。『メンバーシップの認知』という言い方をしますが、北海学園大学の一員であると強く認知しているかそうじゃないか、ということです。北海学園大学が社会的に高い評価を得れば、そこに所属するメンバーも誇りを持つ、といった相互の影響があると言えます」
- 企業と従業員の関係性を可視化する
- 「企業で働く人と話していると、『自分はこういう人間なのに、組織に入ると自分らしくなくなる』と感じることがある、という声をよく聞きます。本人は望んでいないのに、いつの間にか職場の空気や期待に合わせてふるまいが変わっていく――それはなぜ起こるのか、何が要因なのか。そこで私が注目したのが『アイデンティティ』という概念です。こうした変化が従業員のモチベーションや職務満足にどう影響し、さらに組織にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることが、この研究です。
現在は、組織コントロールが組織メンバーに与える影響を、アイデンティフィケーションの観点から考察しています。企業が従業員の行動を意図どおりにコントロールする手段は主に3種類あると言われています。市場(成果)型は売上や目標達成などの結果で評価し、報酬や昇進に反映させる方法です。官僚型はルールやマニュアルで仕事の進め方を標準化し、それが守られているかどうかで管理する方法です。クラン型は価値観や文化を共有し、仲間意識やチームワークを通じて望ましい行動を引き出す方法です。こうした仕組みの中で、企業が示す『こうあってほしい人物像』が、従業員の自己理解や職場でのふるまいにどう影響するのかを探っています」

- 組織アイデンティティとダイバーシティ
- 組織アイデンティティと組織アイデンティフィケーションに関連して、組織がジェンダー、ダイバーシティなどに取り組むことによる組織アイデンティフィケーションへの影響についても研究を検討しています。
「ダイバーシティというと、現状の日本の企業は、政府からの要請もあって『管理職の女性の比率を上げる』とか、『外国人労働者を増やす』といった施策になってしまっています。しかし、海外のダイバーシティ関連の研究では、数値目標だけを追う取り組みは、企業にとってマイナスの影響を招く可能性があると指摘されています。
多様性を推進する目的の一つは、異なる考え方が出会うことで、新しいアイデアが生まれやすくなることです。ダイバーシティのメリットや、本質的な理解が企業には必要です。研究としては、中小企業のダイバーシティの実態がどのようなものか調べたいと思っています。組織アイデンティティとも関連があるので、ダイバーシティを推進することで組織アイデンティフィケーションにどのような影響があるかなどを見ていきたいです」

- 大学は「自分は何者か」と自問するタイミング
- 「自分は何者か、ということについて考えてみてほしいです。日本語では『アイデンティティ』と言いますが、韓国語では『정체성(チョンチェソン)=正体性』という言葉をよく使います。『自分は何者か』ということです。環境が変わったり、状況が変わったときに考えるタイミングが来ると思います。そのたびに考え方が変わったり、迷うこともあるかと思いますがそれでもいいんです。
大学選びや就職活動もそうですが、これからどうなりたいか、なりたい自分を逆算していけば、今、具体的に何をすればいいかという方向がわかるようになります。将来が決まっていない人も大学で多くのことを学び、視野を広げて、学問を通じてもっと自分を知るためのワンステップにしてほしいです。
組織アイデンティティの話も同じで、企業が何かうまくいかなくなったとき、その企業が何のために存在するのか、社会における立ち位置はどういうものか、これからどうなりたいかという存在意義、原点に一旦立ち返ります。そして今、何をすべきかを考えることで、より良い企業となっていくことを目指します」

- Profile
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経営学部 経営学科
金 倫廷韓国・釜山生まれ。早稲田大学大学院商学研究科商学専攻博士後期課程満期退学。商学修士(早稲田大学)。北海学園大学経営学部講師を経て、2022年から准教授。研究テーマは、組織アイデンティティとアイデンティフィケーション。日本経営学会、組織学会、経営戦略学会、Academy of Managementなどに所属。主な著書に『キーワードからみる経営戦略ハンドブック』(分担執筆、同文舘出版、2023年)など。
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2026/3/31公開
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