
現代トルコ政治
政軍関係
体制変動
法学部 政治学科
岩坂 将充教授
IWASAKA Masamichi
現代トルコにおける民主主義、政軍関係、政治戦略
トルコという国をご存知ですか。トルコは、中東とヨーロッパの間にあり、文化的にもその中間に位置している国です。岩坂先生は比較政治学の手法を用いながら、西洋でも東洋でもないトルコという国に注目した研究に取り組んでいます。

- 中東、トルコとのおぼろげな出会い
- 岩坂先生は大学入学時、第一外国語にドイツ語を選択しました。中学、高校と最も身近な外国語は英語であることが多いなか、なぜ先生はドイツ語を選んだのでしょうか。
「中学、高校ぐらいから、中東やイスラム、その中でもトルコが気になっていました。色々と調べた時に、当時の上智大学の副専攻に『アジア文化』があり、中東のことが学べるとわかりました。そのためには、上智大学の外国語学部に入らなければいけないわけです。ドイツとトルコは関係があるらしいということを知り、ドイツ語を専攻することにしました。中東への興味は、小学校の高学年ぐらいにあった湾岸戦争がきっかけではないかと思います」
戦争のニュース映像や、学習漫画などを見聞きするうちに、それまで接してきたことのなかった中東、トルコというものに新鮮な刺激を受けたことが原体験ではないかと振り返ります。
上智大学の博士課程と並行して、トルコのビルケント大学へ留学します。
「現在のテーマでもある『政軍関係』について著名な先生が複数いたこと、現代の政治を学ぶには官公庁が揃っているトルコの首都アンカラが最適だったことから、ビルケント大学に入学しました。興味としては政軍関係全般にあったんですけれど、当時の私のテーマはもうちょっと絞っていて。トルコではこれまで何度か軍が政府を転覆させるクーデタが起こっているんです。その複数のクーデタには共通の要因があるんじゃないか、それがトルコの政軍関係を特徴づけているんじゃないかというところを研究していました」
図書館にある古い新聞から情報を収集したり、歴史的な統計資料や議事録を調べるといった研究方法に加えて、軍人や政治家によって書かれた多くの回想録が貴重な資料になっています。

イスタンブル新市街のタクスィム広場(2005年7月)
- 現在からみる当時のトルコの情勢
- 「今から20年ほど前のトルコの政治状況は、いい方向に向かっているという空気感がありました。様々な価値観の人がいながら、全体としては前を向いていられるポジティブな雰囲気があったと思います。ただ、20年経った今、振り返ると、おそらくそういう時期はすごく短くて。人々は徐々に将来に対して不安をたくさん抱えるようになったり、不便を感じるようになったりしていったのかなと思います。経済的な状況も悪くなっていきましたし、考え方が違う人たちの間の対話が難しくなってきたように感じます。社会の分断みたいなものが目に見えるようになってきたというか。
トルコがずっと抱えてきた問題が解消されないまま時間が経っていて、それが経済の調子が良くない時に表に出てきたということも言えると思います。そういった状況を政治家たちが、政権であれば政権を維持するために、野党であれば野党が政権を奪取できるように、ある意味利用していくわけです。2010年代半ばくらいから、分断の溝が目に見えて深くなっていきました」

- エルドアン大統領の政治戦略
- トルコは、2002年から長期にわたって、エルドアン大統領(2014年までは首相)が政権を率いています。彼の統治のあり方を受け入れるかどうかというところで、社会は今、意見が割れています。
「選挙そのもの、票数についての重大な不正はないだろうと考えられていますが、政権を支持しない人たちに対して寛容かというと、そうとも言い切れないです。現在のトルコは『多数派による支配』という意味では民主主義的であるものの、自由主義的かというと、抑圧的な傾向を強めていると考える人も多く存在しています。
私が2023年に見た選挙は、もしかしたらエルドアンが選挙に負けるかもしれない、政権交代が起きるかもしれないと言われていた時でした。その時の街の雰囲気は、与野党どちらの陣営も熱かったです。野党側は千載一遇のチャンス、事前のメディアなどのアンケート調査でも、勝てる見込みがあるという感じでしたので。エルドアン側ももちろん、負けるわけがないと強気の姿勢です。2023年というのは、ちょうどトルコ共和国の建国100周年でした。トルコの次の100年をどうするか、という大きな話題もあったことで、とてつもない熱量でした。結果的には僅差でエルドアンが勝ちましたが、彼の統治方法が幅広く受け入れられているとは言えない状況です」

- 政治と軍の関係について研究
- 「専門は比較政治学です。国内の政治的な出来事に対して、なぜそれが起こったのかを考えます。国の中で何度か起きたクーデタを比較して共通点・相違点を見つけ、要因を考察することは、比較政治学の手法です。多くのクーデタでは、軍が文民の率いる政府を打倒します。文民政府が軍とどういう関係性を築いてきたのか。どこまでを軍に任せていて、どこまで政府が責任を持つのか。
例えば、軍人たちの昇進についてや、軍事作戦の失敗・損害にどこまで責任を持つのかなど、いろいろな要素が複雑に絡んでいます。失政に対して軍がどういう反応をするのか、軍が集団として大事にしている利益や利害関係に政府がどうアプローチするのかなども、関係性の重要な一部です。そのような関係性に注目して、それが何によって決まるのかを解明していく研究をしています」
トルコは徴兵制度を導入しています。軍と一般市民が関わる機会もその分多く、両者の距離感は日本とは異なります。トルコ共和国建国の時にも軍人は重要な役割を占め、社会的な存在感が大きくなっています。

- 遠い国の出来事とは思わずに
- 留学をしてから、少なくとも毎年1回はトルコに行っているという岩坂先生。自分たちとは馴染みのない遠い国だと感じる人が多いかもしれませんが、「世界は繋がっている」と言います。
「疑問があったり、気になることについて、自分が納得いくまで調べてみたり、考えてみることは大事かなと思います。今は情報が溢れていて、すぐに簡単な説明が手に入ると思うんですけど、世の中は案外簡単にできていないと私は思っています。むしろ、簡単に説明されたことに対して『本当にそうかな』と自分なりに考えてみてほしいです。また、世界は、違っていることよりも共通していることのほうが、思っている以上に多いです。遠く離れた国の戦争の理由も、そこで起こっていることは特殊なことだから自分とは関係ない、と遠ざけてしまわずに、自分が知っている論理で考え、理解することもできます。そういう意味でも世界は繋がっていますし、国内外を問わず旅をして体験を豊かにすることなどで、それを少しでも実感する機会を増やしてもらえればなと思います」

- Profile
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法学部 政治学科
岩坂 将充1978年徳島県生まれ。ビルケント大学大学院経済社会科学研究科政治学専攻博士課程(トルコ)単位取得退学、上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士後期課程単位取得満期退学、博士(地域研究)。同志社大学高等研究教育機構准教授、北海学園大学法学部准教授を経て現在、同教授。専門は比較政治学、現代トルコ政治研究、中東イスラーム地域研究。著作に『よくわかる比較政治学』(共編著、ミネルヴァ書房、2022年)、『エルドアン時代のトルコ 内政と外交の政治力学』(共著、岩波書店、2023年)、『権威主義化する世界と憲法改正(法政大学現代法研究所叢書53)』(分担執筆、法政大学出版局、2024年)、『猛威を振るうストロングマン―ガバナンス改革と権威主義の再興隆』(共編著、明石書店、2025年)など。
2026/3/31公開
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