絶滅危惧生物
鳥類保全学
シマフクロウ

工学部 生命工学科

早矢仕 有子教授

HAYASHI Yuko

シマフクロウ研究を絶滅危惧種の保護政策に活かす

日本では北海道のみに生息しているシマフクロウ。早矢仕先生はその生態を解明する研究を35年以上にわたって行っています。私たちは野生生物とどう向き合っていけばいいのか。絶滅危惧生物の保全のあり方を考えます。

シマフクロウ研究のはじまり
大阪府から、北海道への憧れをもって北海道大学に進学した早矢仕先生。北海道庁が指導教官にシマフクロウの生態調査を依頼したことから、その任務が鳥好きの先生にまわってきました。指導教官からの「いい調査地があるんだよ」という言葉に素直に従い、近くの集落に移り住みます。
「確かにいい調査地で、すぐにシマフクロウを見ることができました。当時はシマフクロウの保護事業が手探りの状況で、できることはなんでもやってみようという雰囲気でしたので、右も左もわからない学生が飛び込んでも関係者の皆さんはとても親切でした」
一度、キャンプ場で野生のシマフクロウを見たことがあり、そのときの印象が強く残っていたことも調査を引き受けるきっかけとなりました。

巣の様子を100m離れた小屋から
観察している大学院生時代

昼夜逆転の観察生活
「35年ほど前から研究をはじめたので、ネット環境も暖房設備も今思えば不便なものでしたが、当時はそこまで大変さは感じず楽しく過ごしていました。夜行性の鳥なので昼夜逆転の生活で、夕方から森に入り調査を開始します。繁殖行動があるかとか、つがいが形成されたかとか、鳴き声が聞こえるところに移動して双眼鏡を覗きました。発信機を使って行動範囲も観察します。いろいろな付け方がありますが、私は鳥の負担になるのが嫌だったので、10gくらいの発信機を尾羽の根っこに貼って針金のようなもので巻いていました。中央の尾羽につけると左右のバランスにも影響しないし、羽が落ちて発信機を回収した際もそれほど傷ついていなかったので、嫌がってつついた形跡はなさそうでした。冬はマイナス30度にもなる寒さが、夏はダニなどの虫が大敵でした。虫は好きではなかったんですけど、すっかり平気になりました」

巨大な巣箱の整備中

個体観察から保護活動へ
北海道庁からの依頼は3年でしたが、その後も大学院でシマフクロウの研究を続け、現在まで携わっています。
「生き物を調べていると、やればやるほどわからないことばかりになります。何も知らない最初の頃より、わからないことが増えていきます。それの見切りをつけることが上手い人は研究を終わらせられると思うんですけど、なんだかズルズルと、『今年もあれがわからなかったな、来年もやったらわかるかな』などと続けていると35年経っていたという感じです。
それはもちろん相手に魅力があるからですけれど。また、シマフクロウは国が保護している生き物なので、基礎研究だけをしているわけにはいきません。関わった以上、保護にも貢献する義務があると思います。個体数を増やしていくための施策を考えたり、関心を持ってもらえるように広報活動をしたり。個体や巣に近づいてストロボを照射して写真撮影するような悪質な観察者とは戦うことも必要です。発信機をつけるとか、巣箱にカメラを入れるとか、どうしても個体には負担をかけるので、その分お返しという感じでしょうか」

野生動物の本来の姿から学ぶこと
巣箱にカメラを設置し、繁殖生態の様子を観察できたことは非常に画期的でした。
「巣箱の中の画像をライブ配信しようとしたとき、当初林野庁の人は『途中でヒナが死んだらどうするんですか、見せるのは過激ではないですか』と言いました。もちろん野生動物ですから、死ぬこともあります。でも、それは見せていくことが大事だと思うんです。無事に巣立っても交通事故に遭うこともありますし、電線で感電死することもありますが、それは隠すことではありません。これは我々の反省も込めていますが、保護をするためにいろいろなことを隠しすぎました。非公開にするのは生息地だけのはずだったのに、情報公開に憶病になりすぎて、『あれもこれも言えないよね』となってしまっていました。可能な限りの情報を公開して、保護に携わる人だけではなく、そこに住む人みんなと共有して学んでいきたいです」

シマフクロウをもっと身近に
現在は、シマフクロウの生態を遠隔で見てもらうような仕組みづくりをしています。巣箱にウェブカメラを設置したり、足環に小さなタグをつけて個体識別の精度を上げるようにするなど、様々な方法を模索しているところです。
「まだ試行段階ですが、関連団体に協力を仰ぎ、ライブ画像を見てもらってアンケートを取るということをしています。子育ての様子や、餌を食べに来るところなどが見られるようにしているんですが、カメラの状態が安定しないなど改善の必要があります」

道東に行かなければ見られないと思われがちなシマフクロウですが、早矢仕先生は札幌でも見られるようになることを目標に掲げています。
「もともと札幌はもちろん、北海道全域にいたことが確認されています。道央圏では80年代に、千歳に存在していたのが最後の記録となっています。シマフクロウは魚を食べるので、海から鮭が遡る川沿いに住むのは自然なことです。札幌で野生のシマフクロウを見られることは決して難しいことではないと思っています。たとえば、真駒内川でシマフクロウが魚を獲っていたら、素敵だと思いませんか」

Profile

工学部 生命工学科
早矢仕 有子

大阪府池田市出身。北海道大学大学院農学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(農学)。札幌大学法学部教授などを経て、2017年から北海学園大学工学部教授。専門分野は鳥類保全学。主な著書に『日本の希少鳥類を守る』(分担執筆、京都大学学術出版会、2009年)、『野生動物の餌付け問題』(分担執筆、地人書館、2016年)、『シマフクロウ 家族の物語』(単著、北海学園大学出版会、2022年)など。

関連リンク
『シマフクロウ 家族の物語』(北海学園大学出版会)

2026/3/31公開

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