脳波
知能情報処理
ロボット制御

工学部 生命工学科

山ノ井 髙洋教授

Takahiro Yamanoi

ロボットを脳波で操る脳波による対象物の判別率100%を達成

頭で思い描いただけでコンピュータを操作し、ロボットを制御する……。そんなSFのような世界が現実のものとなりつつあります。高齢者や体の不自由な人が、脳波で電動車いすを動かしたり、パソコンで意思を伝えるなど医療・福祉分野への応用が期待されています

脳波の測定実験

脳波による判別率100%を達成
山ノ井教授は、これまで約20年にわたってヒトの脳内処理過程の研究を行ってきました。現在では、その成果の一つとして、脳波計測用のキャップをかぶった被験者が、10種類のロボットの動作画像(前進、右、左など)を想起し、それをブルートゥースで送信して、ロボットを100%の精度でイメージ通りに動かす実験に成功しています。また、トランプのクラブのエースからキングまで13種類のカードの中から、被験者が見たカードや想起したカードを、脳波のパターンから判別する実験でも判別率100%を達成しています。

近年、脳と機械、コンピュータを結ぶ新技術は「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」、あるいは「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」と呼ばれ、国内外で種々の研究が行われています。そんな中、10種類以上の対象物を100%の確率で判別できるようになったのは画期的であり、現在実用化に向けた実験を積み重ねています。

きわめてシンプルな脳波の計測方法
山ノ井教授の研究には、他の研究機関にはないいくつかの特色がありますが、脳波の計測方法がシンプルなのもその一つです。一般に、脳波信号を判別する際には、「国際10-20法」に基づく19チャンネルの電極配置が世界標準とされていますが、山ノ井教授は、右中前頭回の付近(右前頭部)の2、4、6、12番チャンネルから出力される信号だけで100%の判別を可能にしています。実用化を考えた場合、センサーの数が少ないほど効率的ですから、これをさらに3チャンネルに減らせるかどうか検討を重ねています。

また、これまで脳波計測では、アクティブ電極を手製のキャップに取り付け、それらの電極を固定するために伝導性のある専用のペースト(のり)を用いてきました。しかし今後は、野球のヘルメットの右耳カバーを利用し、前処理を必要としないノンペーストタイプの電極を用いるなど、より簡便な脳波計測キャップの改良試験も行っています。

脳波の反転をスイッチとして応用
そもそも人が眼で見た情報は、脳内でどのように処理されているのでしょうか。山ノ井教授は、かねてよりこのメカニズムを電子情報工学の手法で解明し、それを応用した最新テクノロジーの開発に取り組んできました。

例えば、従来の学説として、眼から後頭部の脳に入った視覚刺激は、脳の上部分の背側経路と下部分の腹側経路を通り、高次の処理が並列に行われていると指摘されてきましたが、山ノ井教授はこれらの処理経路を具体的にミリ秒(1000分の1秒)単位で解明したほか、漢字とひらがなを見た場合の脳内処理の経路の違いや、敬語文と平叙文を読んだ場合の処理経路の違いなども明らかにしました。こうした研究の途上で、人が方向を示す文字(上下左右)や記号(↑↓←→)を黙読する際には、脳波のピーク極性が逆向きを示すことを発見しました。この反転をスイッチに応用できると考えたことが、今日のBCI研究の飛躍につながったと山ノ井教授はいいます。

脳内処理過程の時空間的分布を解明
ヒトの脳活動の計測には、脳波(EEG)や脳磁図(MEG)、fMRI(脳血流の変化を画像化する技術)などさまざまな方法があります。しかし、例えば脳の活動部位を特定する空間分解能に優れていても、時間分解能に制約があるなど、それぞれに一長一短があります。

そこで山ノ井教授は、EEGを計測した上で、加算平均を行ったERP(事象関連電位)に「等価電極双極子推定(ECDL)」という方法を用いて時空間的分布を明らかにしました。また、「正準判別分析法」という多変量統計的データ解析の手法を用い、判別に有効なチャンネルや潜時を洗い出すなど、これらの手法の有効性を高めた功績も見逃せません。

山ノ井教授は「地球上に残された究極の秘境、それが脳だ」といいます。また、BCI研究の進展によって民生利用に大きな期待が高まる一方で、軍事利用の危険性も指摘されるなど、さまざまな倫理的問題も生じるといいます。いずれにしろ、私たちの未来を劇的に変えうる研究として今後も目が離せません。

Profile

工学部 生命工学科
山ノ井 髙洋

1949年生まれ。1979年北海道大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程修了。工学博士(北海道大学)。北海道大学工学部助手(文部省在外研修として仏国ボルドー第1大学客員研究員)を経て、1987年北海学園大学工学部助教授、1989年より現職。2007年、2017年、知能情報ファジィ学会貢献賞受賞。主な論文に「BMI/BCIの研究の現状」(計測と制御第55巻 第2号 2016年2月号)など多数。

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